彩木ウッドデッキでつくる沓脱石
日本庭園でよく見る沓脱石とは?
今回は広いルーフバルコニーに彩木ウッドデッキが採用された事例を紹介します。写真で見て分かるように、ルーフバルコニーに出る2つの開口の前に、まるで日本庭園などでよく見る沓脱石(くつぬぎいし)のようにちょこんと彩木が設けられています。沓脱石とはその名の通り屋内に入る際に靴を脱ぐ場所です。このようなエクステリアは西洋ではあまり見かけません。日本で沓脱石が定着したのは、大昔からの日本人の考え方にあるようです。
もう少しだけ脱線を続けます――。古くから日本人は雨風をしのぐ家の中を神聖な場所と捉えており、外で得た汚れは「穢れ(けがれ)」として家内に持ち込むことを嫌いました。履物は特に汚れがひどいので、家に入る前に脱ぐようになります。一説ではこの習慣は農耕文化が発達した弥生時代には始まったといいます。時代が進むと住まいに垣根や門、敷居や玄関などが設けられるようになりますが、これらは家内と外界を分ける結界の意味もあります。沓脱石も同様に、単に靴を脱ぐ場所というだけではなく境界を示す象徴的な装置だったと言われます。
開口の前の小さな彩木ウッドデッキ
さて、話を事例に戻します。ルーフバルコニーの床は石材タイルで仕上げられています。ただし、開口の前だけはタイルを張らずに、彩木ウッドデッキのスペースとして空けています。モルタルの床に緩衝・調整材を敷いた上に5本の根太を置き、ウッドデッキの板材を配しているのが、施工の様子で分かります。彩木ウッドデッキを囲むように石材タイルとの間には、樹脂製のグレーチングを配置。グレーチングを外せば彩木ウッドデッキ下の掃除も容易にできるようにしています。また、ウッドデッキの天面の高さはサッシの下レールと同じになっており、スムーズに移動できるように設定されています。
外側に張り出した内側の境界線
ルーフバルコニーと屋内の床高の高低差もさほどなく、綺麗に石材タイルで仕上げているので、一見すると小さな彩木ウッドデッキに大した意味も役割もないように感じるかもしれません。しかし、彩木ウッドデッキでつくったこのワンクッションは、本来の沓脱石とは逆に屋内から素足のままでいられる境界であり、外履きのエリアであるルーフバルコニーの一角に、気軽に段差なく素足で行ける貴重な空間となるのです。「ちょっとウッドデッキに出て、そのままルーフバルコニーに降りる」という心理と行動が促されることでしょう。
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